タイの障害児教育 

        
筑波大学大学院修士課程教育研究科 福田ゆうき

 

                 
 タイで「特殊教育」という言葉は、障害児教育だけに止まらず、天才児、教育不利児(貧困家庭の子ども、学校より遠隔地に居住する子ども、山岳民族の子どもを指す)の教育も意味する。教育不利児は福祉学校で、天才児・障害児は、子どもの状態にあわせ特殊教育諸学校、通常学校で教育を受けることになっている。 ここでは狭義の特殊教育、障害児教育についてその概況を述べる。以下に、障害児教育を1.障害児教育の対象、2. 障害児教育の制度および法律、3. 障害児教育設立の歴史、4. 統合教育設立の歴史、の観点ごとにみていく。

1. 障害児教育の対象

 タイの障害者人口は「人口の1.8%」との報告がみられるが、実際にその数は障害のカテゴリー分けが医学的、社会的見地からのものが多く、その信頼性は関係者の間では低い。障害児の就学率も関係者によると1998年現在、20%と報告する者(NGO関係者)と70%と報告する者(行政関係者)とその差は大きく、判断が難しい。障害児教育の対象は、視覚障害、聴覚障害、運動障害、知的障害、学習遅進(slow learner)、言語障害、情緒障害、病虚弱、その他となっている。特殊学校は障害種により盲学校、聾学校、肢体不自由養護学校、知的障害養護学校、病院内学校(学級)に分かれているが、2つまたはそれ以上の障害種があわさった学校(学級)のようなユニークな形態をもつ教育機関も存在する。

2. 障害児教育の制度および法律


 健常児の教育と同じく、教育制度は6ー3ー3ー4制であり、義務教育年数は初等教育と中等教育前期をあわせた9年間である。国際的な動向を踏まえ、障害児教育でも早期教育の重要性が指摘されており、就学前教育がさかんに行われるようになっている。1995年バンコクで開催された『アジア太平洋障害者10年』の中間報告においてタイは「1997年までに障害児の早期教育プログラムを都市と地方、両地域において導入する」ことを目標に掲げたが、早期教育の中心はいまだ病院における医療介入が中心である。医療機関、専門的な教育機関は都市部に集中しがちで、地方においてはまだ教育機会に恵まれない子どもが多く存在している。このような地域格差がタイの障害児療育問題の大きな課題の一つとなっている。 障害児に関する教育法は国家教育計画(1977年)の中で、必要とするものに教育を与える義務が国にあると記されている。しかし、障害のカテゴリーに関する定義はなされておらず、例外も多く出てきた。国の障害をもつ子どもへの義務教育は1980年の初等教育法に記述されており(健常児は1921年)、この新法により障害児が教育を受ける権利に関して健常児と同等であることが明記され、6ー14歳の障害児に初等教育、中等教育を受けることが義務づけられた。

3. 障害児教育設立の歴史

 タイの特殊教育は1938年に盲人であるアメリカ人女性、Genevieve Caulfieldによって初めて視覚障害児のためのプログラムが紹介されたことをもって始まる。その後、1939年に盲学校が設立され、タイ盲人のための協会(Foundation for the Blind in Thailand)へと発展する。聾教育は、1951年に教育省の一般教育部と一市民(米大学で聴覚障害教育について学ぶ)との協力により聾学校がバンコクの寺(寺院は一つの教育施設)で始められる。運動障害児の教育は1955年のポリオの全国的な流行とともに開始された。最初は、慈善活動として財団や協会により行われるが、1952年に設置された特殊教育課の援助により、1958年に病院内に教師を派遣し教育を行い、1965年に肢体不自由養護学校を設立した。知的障害児の教育は、1957年に通常学校の特殊学級で開始した。知的障害養護学校としては1964年に病院併設の養護学校が設立された。1998年現在、全国の特殊教育諸学校は42校設置されていると報告されている。

4. 統合教育設立の歴史


 特殊教育諸学校が増設される過程で1956年にバンコクの通常学校において盲児の中等教育が始められたという報告がある。これはその当時盲児のための中等教育の盲学校が存在しなかったため、統合教育せざるを得なかった例であると思われる。1977年の国家教育計画の中で「適切な場合は通常学級での教育も提供する」により、1978年以降改めて統合教育の取り組みがなされるようになる。

 タイの障害児教育は個人または一団体の慈善活動によりプログラムが開始され、やがて国との協力体制をとるに至る。しかし、教育を受ける機会のない子どもが地方においてはまだ多く存在するものと推測される。世界的な統合教育志向・国内の要請も手伝い、障害児教育の方向性は特殊教育諸学校増設もさることながら、既存の施設を利用した統合教育の形態が今後も多くとられていくものと思われる。



統合教育が実践される小学校
(ノーンプアラムプー県)

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